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AI時代にブランディングが重要な理由|企業の独自性を見つけ、伝える力とは

AI時代のブランディング

監修:松井 寛志
編集・発行:一般社団法人 ブランド・プランナー協会

複数のデザイン案を見ながら企業らしさを話し合うチーム

生成AIによって、文章や画像の案を短時間で数多く作れるようになりました。情報整理、アイデア発散、試作の効率が上がる一方、少ない情報と指示だけで制作すると、他社と似た言葉やデザインになりやすい面もあります。

AI時代にブランディングが重要なのは、制作物を増やすためではなく、その会社が何を大切にし、誰へどんな価値を届けるのかを判断する軸が必要だからです。

この記事では、AIに任せやすい工程と人が担う工程を分け、企業の独自性を失わずにAIを活用する考え方を解説します。本文の実務的な見解は、今回の聞き取りと、ブランディング実践セミナー資料を基に構成しています。

結論|AIで作れる時代ほど、選ぶためのブランドが必要

AIは、文章、画像、企画の候補を出す力を広げます。しかし、候補が増えただけでは、その会社に合う案を選べません。判断軸が曖昧なまま効率を優先すると、公開情報をまとめ直しただけの文章や、どこかで見たようなデザインに寄りやすくなります。

AI時代のブランディングで必要な3つのこと

  • 自社の一次情報を集め、独自の強みや価値観を明確にする
  • 複数案から、その会社らしい表現を選ぶ基準を持つ
  • 言葉やデザインだけでなく、顧客対応や社内行動にも一貫して反映する

AIを使わないことが答えではありません。AIで速くできる工程を活かしながら、人が対話し、意思を持って始め、最後に責任を持って選び、伝えることが重要です。

生成AIによってブランディングの何が変わるのか

生成AIの活用により、従来は順番に進めていた調査、アイデア、試作、検証を短い間隔で往復しやすくなります。実践セミナーでは、主な変化を次の4点に整理しています。

1情報整理・分析

アンケート、営業活動ログ、インタビュー、顧客データなどを整理し、論点や仮説を見つける補助に使えます。

2アイデア発散

コピー、コンセプト、企画の方向など、検討の出発点となる候補を幅広く出せます。

3プロトタイプ

文章やビジュアルの試作を短期間で作り、抽象的な議論を具体的な比較へ進められます。

4反復と改善

作って終わりではなく、試す回数を増やし、方向性を確かめながら精度を高められます。

ただし、AIの出力には事実と異なる内容が含まれる可能性があります。NIST(米国国立標準技術研究所)も、生成AIが誤った内容を自信ありげに生成する「confabulation」を主要リスクの一つに挙げています。調査や分析に使う場合も、元データ、出典、前提を人が確認する必要があります。

NIST:AI Risk Management Framework

AI頼みの発信が均一化しやすい理由

現場で注意したいのは、発信する情報やデザインの均一化、コモディティ化です。効率だけを求めると、すでに公開されている二次情報や、AIが生成した一般的な表現へ頼りやすくなります。

たとえばSNSのバナー広告では、色や構図、人物の表情、細部の質感が似て見えることがあります。文章でも、「革新的」「未来を切り拓く」「お客様に寄り添う」といった抽象語を並べるだけでは、会社固有の背景が伝わりません。

少ない情報や指示から作ったアウトプットほど、細部や言葉の選び方が似やすく、企業の独自性が薄れやすい。これはAIの利用そのものより、AIへ渡す一次情報と、出力を選ぶ判断が不足している問題です。

人が書いた文章には、整いすぎていない余白やノイズ、感情の揺れが感じられることがあります。その不均一さをすべて消すと、読みやすくても、誰が語っているのか分からない文章になりかねません。

Googleも、生成AIは調査やオリジナルコンテンツの構成に役立つ一方、利用者への価値を加えず大量生成することには注意を促しています。また、独自の視点や実体験に基づく、コモディティではないコンテンツを重視するよう案内しています。

Google Search Central:生成AIコンテンツに関するガイダンス

表現を作る前に決めたい「誰に、どんな価値を届けるか」

ロゴ、コピー、Webサイト、SNS投稿を作り始める前に、次の問いへ答えます。

  • 自社は、なぜ存在するのか
  • 中長期的に、どんな姿を目指すのか
  • 顧客は、どんな理由で自社を選んでいるのか
  • 競合と比べたとき、独自の強みは何か
  • 組織として守りたい価値観や行動は何か

答えは、Web検索だけでは十分に得られません。経営者や社員へのインタビュー、顧客の声、営業活動の記録、創業時の判断、失敗から学んだことなど、社内外に蓄積された一次情報を集めます。

そのうえでAIを使えば、情報を分類し、共通点を探し、複数の仮説や表現案を作ることができます。AIへ「らしい案を出して」と頼む前に、何がその会社らしさを形づくってきたのかを渡すことが先です。

AIに任せる工程と、人が担う工程

比較表は横にスクロールできます。

ブランディングにおけるAIと人の主な役割
工程AIが支援しやすいこと人が判断・実行すること
開始議題、質問案、情報整理の枠組みを出す変革の意思を示し、目的と課題意識を合わせる
調査・分析大量情報の整理、分類、仮説の候補出しデータの適切性を確認し、現場の背景を読み取る
アイデアコピー、コンセプト、ビジュアルの候補を広げる企業らしさ、顧客価値、実現可能性から選ぶ
試作・検証複数のプロトタイプを短時間で作る関係者や顧客の反応を確認し、改善方向を決める
完成・浸透展開物の作成や運用を補助する言葉とデザインに意思を宿し、自ら伝え、行動で体現する

この両端を「ファーストワンマイル」と「ラストワンマイル」と捉えます。最初に人が意思と目的を定め、途中でAIを活用し、最後は人が責任を持って表現と行動へ落とし込む考え方です。

「その会社らしさ」は複数人との対話で確かめる

AIが複数案を出しても、「この会社らしいか」を数値だけで決めるのは困難です。その会社の人と対話し、関係者複数人の感覚値や非言語的な反応も含めて確かめます。

大切なのは、多数決で一番人気の案を選ぶことではありません。なぜ心が動いたのか、なぜ違和感があるのか、どの言葉なら自分たちの行動と一致するのかを対話します。すぐに言葉にならない反応や、関係者ごとの捉え方の違いも判断材料です。

AIの案へ問い返したいこと

  • この表現は、実際の経験や行動に裏づけられているか
  • 競合企業が使っても成立する一般的な言葉になっていないか
  • 経営者だけでなく、現場の社員が自分の言葉で説明できるか
  • 顧客が実際に感じている価値とずれていないか

「AIが良いと言ったから」ではなく、人同士の対話を通じて採用理由を説明できる状態にします。

構築・反映・浸透の3段階で一貫性をつくる

1ブランド構築

企業の存在意義、目指す姿、価値観、顧客へ提供する独自の価値を整理し、言葉やデザインで認識できる状態にします。AIの案を選ぶ基準も、この段階で明確になります。

2ブランド反映

Webサイト、広告、商品、営業資料、店舗、顧客対応など、重要な接点へブランドを反映します。AIで制作量が増えても、接点ごとに別の会社に見えないよう、基準と確認方法を設けます。

3ブランド浸透

社内外への継続的な発信と活動を通じ、ブランドへの認識、共感、体現を増やします。経営層や中間層が自分の言葉で語り、社員の行動や顧客体験につながって初めて、ブランドは制作物の外へ広がります。

AIと共創するブランディングの進め方

1社内外の一次情報を集める

経営者・社員への対話、顧客の声、営業記録、商品開発の背景などを集めます。機密情報や個人情報をAIサービスへ入力する場合は、組織のルールと利用サービスの条件を確認してください。

2AIで整理し、複数の仮説をつくる

情報を要約するだけでなく、「共通する価値観は何か」「競合との違いは何か」など、異なる角度から仮説を出します。出力は結論ではなく、対話を深める材料です。

3複数人で対話し、方向性を選ぶ

経営、現場、顧客接点を担う人など、立場の異なる関係者と案を検討します。言語化された意見だけでなく、迷い、違和感、熱量の差も確かめます。

4小さく試し、反応から改善する

いきなりすべての接点を変えず、コピー、ビジュアル、ページなどを試作します。AIで反復を速めながら、事実、権利、ブランドとの一貫性を人が確認します。生成物の利用では、文化庁の著作権に関するガイダンスも参考になります。

文化庁:AIと著作権について

5発信後の行動まで設計する

ロゴやメッセージの公開をゴールにせず、社員がどのように説明し、顧客へどのような体験を届けるかまで考えます。ブランドを判断軸として日常業務へつなげます。

AI時代のブランディングについてよくある質問

Q.AIを使うと、ブランドの独自性は必ず失われますか?

必ず失われるわけではありません。自社の一次情報を十分に与え、複数人で出力を検討し、採用理由を説明できれば、AIは整理や試作を支える道具になります。

Q.AIにブランドコンセプトを作ってもらってもよいですか?

案を出す用途には使えます。ただし、企業の意思や顧客への約束をAIだけで決定することは避けましょう。関係者が対話し、実際の事業や行動と一致するかを確認します。

Q.AIらしい文章を避けるにはどうすればよいですか?

抽象的な指示だけで作らず、実際の経験、判断、顧客の言葉、具体的な場面を素材にします。整えすぎて話者の感情や語り口を消していないかも読み直しましょう。

Q.ブランディングではAIをどこから使えばよいですか?

まず目的と扱う情報を決め、公開情報の整理や質問案の作成など、小さく確認しやすい工程から始めます。機密情報、著作権、出力の事実確認に関するルールも先に定めましょう。

まとめ|速く作る力と、らしさを選ぶ力を組み合わせる

生成AIは、調査・分析、アイデア発散、試作、改善を速めます。一方、二次情報と少ない指示だけに頼れば、発信する文章やデザインが均一化し、企業の独自性が見えにくくなります。

最初に人が意思と目的を定め、AIと一緒に可能性を広げ、最後は人が対話して選び、行動で体現する。この両端をつなぐ判断軸が、AI時代のブランディングです。

松井 寛志

監修:松井 寛志

一般社団法人ブランド・プランナー協会 理事長・ブランドクリエイティブ講師。企業ブランディングの実務と教育に携わり、ブランド戦略を言葉や視覚表現へ落とし込む考え方を伝えています。